『三匹のカエル』
Story of January & Febrary 2010
三匹のカエルは山登りを競い合うことにした。
その競争を一目見ようと集まってきた他のカエルたちは大声で言った。
「頂上まで上るなんて絶対無理だ!」「なんて無知でバカな奴らだ!」
カエルたちは声をそろえてそう叫んだ。
それを全て聞いていた一匹目のカエルは、皆がそう言うのならやっぱり無理に違いないと思い、スタートの合図が鳴る前に山登りをあきらめてしまった。
残りの二匹のカエルは山に登り始めた。
「絶対に成功するはずがない!君たちはなんて馬鹿げたことに一生懸命になってるんだ!」カエルたちは口をそろえてそう叫んだ。
すると二匹目のカエルも戸惑い始めた―あれだけ大勢のカエルたちが集まれば、ぼくよりもっと多くのことを知っているだろう。そう考えて、彼もまた足を止めた。
三匹目のカエルは頂上を目指し続け、しばらくしてついに彼は頂上にたどり着いた。それを見て他のカエルたちは皆驚き、互いの顔を見合わせた。
静けさの中、三匹目のカエルは山の頂上から見える景色を楽しんでいた。
そのカエルは、耳の聞こえないカエルだったのだ!
Story of November & December 2009
『タマラとイサック』
タマラとイサックは幸せな結婚生活を送っていたが、あるときからイサックの心には悲しみが立ちこめ始めるようになった。なぜなら二人は子宝に恵まれなかったからだった。イサックはユダヤ教の法に従って妻と別れ、妻を実家へ戻す決意をした。それを聞いたタマラは大きなショックを受けるが、イサックの気持ちを理解して、ラビに助言を求めに行こうと言った。(*ラビ=ユダヤ教の指導者の敬称)
そして二人がラビの元を訪れると、ラビは二人にこう言った。「あなたたちの結婚は祝宴によって始まったのだから、それを終えるためにもまた祝宴をもちなさい。」
そこで二人は、二人だけの祝宴をあげることにした。ロウソクの光のもとで、二人はタマラが用意したおいしいご馳走とワインを口にしていた。その最中、イサックは考え始めた。タマラにとってこの結婚はどうだったのだろう。これがタマラと過ごせる最後のとき、、、。イサックは、二人で長年共に過ごした部屋を見渡すと、突然タマラに言った。「タマラ、この家の中にはいろんなものがある。ラビから頂いたミノラ(ユダヤ教の燭台)もあるし、あそこに掛かっているのは二人で買った絵だね。君の伯父さんが贈ってくれた食器棚もある。今夜、君がこの家を去るとき、君がこの家の中で一番愛着を感じるものを持って行ってほしい。」
それを聞いたタマラはイサックにワインをもう一杯つぎ、そして二人はその夜遅くまでおしゃべりをした。特にイサックはワインをたくさん呑み、それに合わせるようにタマラはイサックのグラスにワインを注ぎ続けた。そして遂にイサックが眠りこけると、タマラは急いで裏庭に向かった。そこには手押し車があった。近所の人に手伝ってもらってイサックを手押し車に乗せたタマラはその夜、その手押し車を押しながら彼女の実家へ戻った。そして家に着くと、タマラはイサックを手押し車から降ろしてベッドに横たわらせた。
翌朝目を覚ましたイサックは、驚きながら辺りを見回して言った。「これはどうしたことだ?どうして君の実家に僕がいるんだい?」
それを聞いてタマラは笑顔で答えた。「あなたが私に、私の一番好きなものを実家に持ち帰りなさいって言ったのよ。だからあなたを連れてきたの。私が一番愛してるのはあなただもの。」
イサックは妻の愛情を感じていた。「自分のことばかり考えていた自分はなんておろかだったのだろう。一緒に家に帰ろう。そしてこれからもずっと共に暮らそう。」
それから二人は最後まで共に幸せに暮らしたということである。
Story of September & October 2009
『ワン・リー』
むかし中国にワン・リーという画家がいた。ワン・リーが絵を描くとき、それが静物であろうと人物であろうと、もしくは景色であろうと、彼はまずそのものを長い時間をかけて眺めた。そうやってじっくりと眺めた後、彼は素早い筆の運びで一気に描き上げた。ワン・リーが描いたものは、まるで本物であるかのようだった。彼が鳥を描けば、その絵を見た人々には皆その鳥のさえずりが聞こえてきた。彼が誰かの肖像画を描けば、その絵を見た人々は皆、その絵の中の人物が本当に生きていると感じてその肖像に話しかけ始めた。そんなわけで、人々はワン・リーのことを絵の達人と呼んだ。
ワン・リーが絵の達人だという噂は、村から村、町から町へと伝わり、ついには皇帝の耳にまで届いた。「誰が達人で誰が達人でないかは他の誰でもない、私の決めることだ!」皇帝は怒って、その画家を捉えて皇帝の前に引き連れて来るよう二人の兵隊に命じた。国中の人々がワン・リーのことを聞き知っていたので、兵隊達にとってその画家を見つけることはとても簡単なことであった。引きずられるようにして皇帝の前にやってきたワン・リーを見て、皇帝は虐げるような笑いを見せて言った。「お前が絵の達人と言われるやつか。7日間与えてやるからそれを証明してみせろ。」
ワン・リーは牢屋へ入れられた。その牢屋には小さな窓が一つあり、そこからワン・リーは宮殿の前に広がる景色を見渡すことができた。宮殿から続く道は遥か彼方の丘のずっと向こうの地平線まで続いていた。ワン・リーはその風景を6日間、眺め続けた。そして7日目がやってきたとき、彼は筆を手にとって、眺め続けていたその風景を描いた。その後、皇帝の前にやってきたワン・リーと彼が描いた絵を眺めて、皇帝は側近の助言者たちにたずねた。「どうだろう、これは達人の絵だと思うかね?」すると助言者たちは口々に「達人の絵ではない」と言い始めた。それを聞いて皇帝は笑い、兵隊にワン・リーを処刑するよう命じた。そのとき、ワン・リーは皇帝に深々と一礼したかと思うと、その絵に向かって歩き始めた。その場にいた誰もが一体何がその瞬間起こっているのか分からず立ちすくんでいる間に、ワン・リーはその絵の中に足を踏み入れた。そして、丘を越え地平線の向こうまで続く道を歩き出した。ワン・リーは、本物の絵の達人だった。
Story of July & August 2009
『あるダンスの物語』
おじいさんの片足は麻痺して動かなかった。
ある日、そのおじいさんがストーリーを語っていた。
それはいろいろなダンスのお話だった。
おじいさんは語りに語った。
まるで語り手のようにおじいさんは語った。
そしてある瞬間、おじいさんは急に立ち上がったかと思うと、
そのストーリーの中の人たちがどんな風に踊っていたかを踊って見せ始めたのだ!
さあ、あなたもあなたのストーリーを語ろうではないか!
Story of Mei & June 2009
『 僧侶の靴』
インドで一人の僧侶が出発間際の電車に乗ったとき、
はずみで履物の片方が脱げ落ちてしまった。
そのことに気づいた僧侶は、急いでもう一方の履物を脱ぎ、
それを落ちてしまった履物の方に向けて投げ捨てた。
その光景を側で見ていた乗客は、不思議に思って僧侶に尋ねた。
「せっかく残っていたもう片方の履物を投げ捨てて、あなたは両方の履物をなくしてしまった。
どうしてそんなことを?」
すると僧侶はこう答えた。
「誰かがあの履物を見つけたら、今度はその人があの履物を使うことができるでしょう。」
Story of March & April 2009
『 ひび割れた壷』
暑く乾いたインドのある村に、水を運ぶ老いた男がいた。
彼は毎日、丘のふもとの泉から水を二つの壷にくみ、それを担ぎ棒の両端に引っ掛けて
丘の上に住む裕福な人々のもとへと一日に何度も何度も運んでいた。
その男が持っていた二つの壷のうち一つは、真新しく完璧な壷だった。
ところがもう一つの壷は、古びてひび割れた壷だった。
そのひび割れた壷の水はポタポタと滴り落ち、男が丘の上にたどり着く頃にはいつも、水は半分ほどに減っていた。
そんなある日、真新しく完璧な壷が、ひび割れた壷に言った。
「せっかくご主人様が頑張って水を運んでいるのに、お前ときたら!水をこぼしてばかりで役立たずじゃないか。
さっさと新しい壷と交換してもらったらどうだ!」
それを聞いたひび割れた壷は、確かに新しく完璧な壷が言う通りだと、 自分を恥ずかしく情けなく思った。
そして、男に申し訳なく思いながら言った。自分はもう役に立たないから、自分を捨てて新しい壷と交換してほしい―と。
ところが、男からはひび割れた壷が予期していなかった言葉が返ってきた。
「どうしてそんなことを言うんだい?何を恥じているんだ?」
そして男はひび割れた壷を脇に抱えて、毎日行き来している丘の道を見るように言った。
「何が見えるかい?」男はひび割れた壷に問いかけた。
「乾いた砂ばかりで、他には何も見えません。」ひび割れた壷は答えた。
「もっとよく見てごらん。何が見えるかい?」男はもう一度言った。
ひび割れた壷がもう一度よく見てみると、丘のふもとから上まで続くその道ばたの片側に、
色とりどりの小さな花が点々と咲いているのが見えた。男はひび割れた壷に優しく言った。
「お前が水をこぼしてくれるお陰で、この乾いた丘の道の片側にこうやってきれいな花が芽を出して咲くようになったんだ。
決して楽ではない私の仕事に、お前は楽しみと安らぎを与えてくれているんだよ。」
Story of January & February 2009
『 神様の贈り物』
神様が世界を創造し終えた時、神様は何か神のようなものを少し世界に残していきたいと考えた。
それは、人間が努力したらどのように在ることができるのか、神から人々への約束を示すもの、神様の輝きの一部であった。
神様はその輝く贈り物をどこに残していこうかと考えた。
もしそれが簡単に見つけられてしまっては、その贈り物の真の価値を人間が理解することはないだろうから。
一番高い山の上に隠したらどうでしょうと天使は助言したが、神様は言った。
「人間は冒険家だ。一番高い山に登ることもすぐに学ぶだろう。」
それでは深い海の底は?との助言にも神様は言った。
「私は人間に思考を与えた。彼らは船を造ってこの力強い海を渡ることをいつか必ず学ぶだろう。」
それではどこに?と天使は尋ねた。
神様は笑って言った。
「これを誰も入ることの出来ない、最も難しい所に隠そう。
私はこの贈り物を人間の心の一番深い所に隠すことにしよう。」
Story of November & December 2008
『勇敢なオウム』
ある日のこと。大きな山火事が起こり、森全体が火に包まれた。動物たちが皆逃げ惑う中、小さなオウムはまっすぐに川へと飛んだ。そして川に飛び込み、その羽に水をたっぷりと含むと、火に包まれている森へと急いで戻って行った。そして森の上空でその小さな身体を震わせて、羽に含まれた水のしずくを火の上に垂らした。
疲れることを知らないかのように、オウムは何度も川と森を行き来しては数滴の水を運んだ。次第にオウムの華麗な羽は彩りを失い、その羽にまでも火が付き始めた。
その様子を天から見ていた天使たちは、間抜けなオウムだと笑った。そのうちに一人の天使が、そんなことをしても無駄だから止めた方がいいと伝えにオウムのところにやってきた。それでもオウムは川と森の間を飛び続けた。その様子を見ていた天使は、オウムの勇敢さ、粘り強さ、そして確信に満ちた姿に心を打たれ、天使の頬を涙がつたい始めた。その涙は森に広がる火の上に、ぱらぱらと降る雨のように降り注いだ。そして天に戻った天使は、他の天使たちに勇敢なオウムのことを話して聞かせた。一人、そしてまた一人と、天使たちはオウムの信念に敬服し、心を動かされ、涙を流し始めた。その涙はほどなく森に広がった火を鎮めていった。
後に動物たちが森へと戻り、オウムの羽に色彩が戻ったとき、オウムはその森で最も華麗で美しい動物として皆に慕われる存在になった。
Story of September & October 2008
『ナチョおじさんの帽子』
ナチョおじさんは古くなった自分の帽子を見ながら思いました。新しい帽子と取り替えよう。そして帽子屋さんへ行って、新しくかっこいい帽子を手にしたナチョおじさんはとても満足して家に戻りました。さて、古い帽子をどうしようか、、、ナチョおじさんは古い帽子をゴミに出して捨てる事にしました。
その直後、道を通りかかった男は、道ばたのゴミを見て驚きました。『ナチョおじさんの帽子じゃないか!』男はその帽子を拾って紙に包んで、ナチョおじさんのところへ持っていきました。『おじさんの帽子が落ちていたから持ってきてあげたよ。』『心から感謝するよ』ナチョおじさんはそう言って古い帽子を受け取りました。
さて、どうやってこの帽子を追い払おうか、、ナチョおじさんは考えた末、川に投げ捨てる事にしました。帽子は流されていきましたが、その川の下流で遊んでいたのが町の男の子たちでした。男の子たちは叫びました。
『あそこを見ろ!ナチョおじさんの帽子だぞ。ナチョおじさんが川に流されたのかもしれない。助けにいくぞ!』男の子たちは帽子をすくいあげて、ナチョおじさんのところへ帽子を持っていきました。『ナチョおじさん、おじさんの帽子が川に流されていたんだ。本当だよ。おじさんのために僕たち、拾って持ってきたよ。』『それはありがとう。感謝するよ。』ナチョおじさんは言いました。
またこの古ぼけた帽子が戻ってきた、、、ナチョおじさんはそう思いながら、古い帽子を隅にやりました。その直後、物乞いがナチョおじさんの家を訪ねてきました。ナチョおじさんは思いついてその物乞いの男に言いました。『さあ、この帽子をあげよう。古いけど、暑い太陽の日差しから君を守ってくれるだろう。』
物乞いはその帽子をかぶって町の方へ行きました。その街角のカフェでは数人の男たちがトランプで遊びながら座っていました。男たちは物乞いの男を見て叫びました。
『おい、この盗人野郎!ナチョおじさんの帽子をかぶってやがる!』男たちはそういって、物乞いの腕を掴んでその頭にあった帽子を荒々しく取り、息を荒くしたままナチョおじさんのもとへ帽子を届けにいきました。『ナチョおじさん、盗人がおじさんの帽子をかぶっていたんだよ。おじさんのために取り戻してやったよ。』『ありがとう。心から感謝するよ。』おじさんは驚きを隠しながら言いました。
その近所の男たちが去った後、ナチョおじさんは新しい帽子を手に取ってそれをゴミ箱に捨て、古い帽子を改めてかぶりました。その新しい帽子がナチョおじさんのもとへ戻ってくることはありませんでしたとさ。
Story of July & August 2008
『ナツメヤシの種を植える男』
とある砂漠の真ん中に、美しいオアシスがあった。そこでは一人の年老いた男が、何やら懸命に働いていた。そこへ旅人が通りかかり、ラクダに水を飲ませ、一息入れるために足を止めた。旅人の驚いたことに、その年老いた男は身体中に汗をかきながら砂を掘っているではないか。そこで旅人は男に尋ねた。「ここで何をしてるんだい?シャベルを持って働くにはここは少々暑すぎると思うんだが。」
「私はナツメヤシの種を植えているんです。」大きく一息はきながらその男は答えた。
「ナツメヤシの種?」旅人はまだ驚きを隠しきれない声で、男の言葉を繰り返した。「愛しい友よ。この砂漠の猛暑があなたの気を狂わせてしまったのか。ナツメヤシの種が芽をふいて実をつけるまで、50年以上かかるのだよ。私はあなたが100歳より長生きすることを祈るけど、それでもあなたが今植えているものの実を穫るのはとても無理なことだ。さあ、手を休めて、まず私と何か飲むことにしようではないか。」
「旅人よ、よく聞いてほしい。」年老いた男は話し始めた。「私は生まれてこのかた、私ではない他の誰かが植えてくれたナツメヤシをずっと食べてきた。その人たちは、自分たちが植えたナツメヤシを一度でも自分の口にできるとは思ってもいなかっただろう。そして私が今、この種を植えることで、いつの日か誰かが私の植えたナツメヤシの実を食べることができるだろう。だからまず、私はこの仕事をすませたいと思う。それからでもよければ、一緒に何かを飲むとしようかね。」
(*このストーリーは交流誌「めたもるふぉーぜ」2008年1.2月号に掲載された記事を、めたもるふぉーぜの許諾を得て掲載しています。)